一般社団法人 日本ベンチャーキャピタル協会
会長 郷治 友孝
会長 田島 聡一
当協会は、2002年11月の発足以来、ベンチャーキャピタル業界における相互連携と、革新的なスタートアップの起業及び成長の支援を目的として活動して参りました。会員数は、ベンチャーキャピタル及びコーポレート・ベンチャー・キャピタルを中心に、政府系・大学系の機関投資家その他の賛助会員も加えて現在415社となっております。
高市内閣においては、「強い経済」の実現が国家的課題として掲げられています。その中核として、本年新たに「日本成長戦略会議」が発足し、そのもとに「スタートアップ政策推進分科会」が設置され、スタートアップを我が国経済再興の柱に据える政策推進体制が一層強化されました。当協会としても、こうした政府の取組みは、令和4(2022)年に閣議決定された「スタートアップ育成5か年計画」の実効性を更に高め、大型で高さのある企業を拡大再生産していくための踏み込んだ施策であると受け止めているところです。
1.今般の「ミニマムタックス」強化の概要
そうした中、令和8(2026)年度税制改正においては、令和5(2023)年度税制改正で創設された「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」(いわゆる「ミニマムタックス」)を令和9(2027)年1月1日より強化することが決定されました。具体的には、特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へと半減されるとともに、最低税率が22.5%から30%へと引き上げられ、株式譲渡益のみで見た場合の追加負担発生ラインは大きく低下し、スタートアップ株式の譲渡所得が国際的にも極めて重い水準で課税されることとなります。この税制改正の検討過程において、スタートアップへの影響が顧みられることはなかったことを申し添えます。
2.問題の所在
当協会としては、「ミニマムタックス」が目指す国内の税負担の公平性確保という目的そのものに反対するものではありません。しかしながら「ミニマムタックス」の課税強化は、スタートアップ政策との調整が全くなされないまま、創業者・初期株主等によるスタートアップ株式の譲渡所得にも一律に及ぶ設計となっており、以下の各点において看過し得ない問題があります。
(1)国際的な税負担の公平性の毀損と、起業家獲得を巡る国際競争力の劣勢化
今や税制は、国境を越えて優秀でスケールの大きな起業家を誘引・定着させるための、起業環境における国家間の重要な競争領域となっています。しかしながら今般の「ミニマムタックス」強化後、創業者・初期株主等が保有する創業株式の譲渡に係る我が国の実効税負担は、米国・英国を中心とする欧米資本主義諸国はもちろん、インドのような有力新興国、さらには中国といった共産主義国と比べても、突出して高い水準となります。そのような改正が「負担の適正化」と言えるのでしょうか。スタートアップ株式の譲渡所得への課税という観点において、いずれの主要国よりも日本のみが重い税負担を課す構図となり、創業者・初期株主等に対する国際的な税負担の公平性を著しく損なうことから、起業家を巡る国際的な獲得競争において日本が明らかに不利な立場に陥る結果を招きます。
(2)創業者等への直撃、企業価値向上インセンティブの毀損、起業環境の拡大再生産の阻害
2025年に上場した我が国スタートアップの上場時株主構成を見ても、創業者・初期株主等の個人株主がその大半を占めており、「ミニマムタックス」強化はこれら個人株主を直撃するものです。さらに、本制度は譲渡益が大きいほど追加負担が累進的に重くなる仕組みであるため、企業価値が大きく向上するほど創業者・初期株主等の手取りが圧縮されることとなり、企業価値を向上しようとするインセンティブを構造的に削ぐとともに、創業者・初期株主等が「日本に残ってここで更に大きな事業を成し遂げたい」と思える起業環境の拡大再生産を阻害するものと考えられます。
(3)エンジェル税制・「日本版QSBS」の拡充では代替不能であること
一部には、このような「ミニマムタックス」強化の影響はエンジェル税制やいわゆる「日本版QSBS」の拡充で吸収可能との意見も見受けられます。しかし、エンジェル税制はエンジェル投資の拡充を目的とするもので、そもそも制度趣旨が異なります。また、「日本版QSBS」は創業者や初期株主等も対象となりますが、現状では米国と異なって再投資を必要とする制度であり、創業者・初期株主等の保有株式の譲渡益における追加負担を中和する仕組みではありません。これらの拡充をもってしても、「ミニマムタックス」強化の打撃を代替的にカバーすることは不可能です。
3.「スタートアップ育成5か年計画」の実効性確保のためにも本税制改正は不可欠
「スタートアップ育成5か年計画」は、令和9(2027)年度までにスタートアップへの投資額10兆円規模・ユニコーン100社・スタートアップ10万社の創出を目指す野心的な目標を掲げています。その実現には、創業者・初期株主等が自身のスタートアップの企業価値をスケールの大きな水準まで向上させ、ロールモデルとなる人材と成功資金が国内で循環し、更に優秀な起業家と資金の好循環を生む「拡大再生産」のサイクルが不可欠です。同計画の達成は、創業者・初期株主等が「日本に残って更に大きな事業を成し遂げたい」と心から思える環境を、税制を含む施策の総体として整えることができるかどうかに掛かっています。しかるに今般の「ミニマムタックス」強化は、同計画が産み出し増やそうとしている起業家に対して、スタートアップのスケールを大きくすればするほど国際的に突出した課税を行おうとするものです。当協会としては、このような「ミニマムタックス」強化は「スタートアップ育成5か年計画」と矛盾するばかりかその実効性を我が国の内側から破壊しようとするものであるため、それを是正するための税制改正が必要不可欠であると考えております。
4.具体的提言
以上を踏まえ、当協会としては、スタートアップ政策全体との整合性を確保するため、令和9(2027)年度税制改正において次の施策を措置いただくよう政府与党関係各位に提言して参ります。
- 特定スタートアップ株式等(仮称)の譲渡所得については、「ミニマムタックス」の適用対象から除外する措置を令和9(2027)年度税制改正で創設すること。具体的には、創業者・初期株主等の一定の個人がスタートアップの設立後一定期間内に取得した株式であって、研究開発・雇用拡大その他の成長投資を継続する一定の要件を満たす内国法人の発行するものを「特定スタートアップ株式等」と位置付け、当該株式を5年超保有した後の譲渡に係る譲渡所得等については、「ミニマムタックス」の適用対象から除外する。資産管理会社経由のスキームや実質的に租税回避を目的とする取引等は適用対象から除外する。本措置は3年程度の時限措置とした上で、その間の検討や効果検証を法令上明示する。
- 併せて、米国QSBS制度を参考に、再投資を必要としない形で創業者・初期株主等が保有する株式の譲渡益への非課税枠を設けること。
当協会としては、このたびの「ミニマムタックス」強化が直撃するスタートアップの関係者の皆様の声を集約しつつ、現政権の「強い経済」の実現と「スタートアップ育成5か年計画」の達成のため、また、日本成長戦略会議「スタートアップ政策推進分科会」設置の趣旨の貫徹のため、官民一体となって必要な税制改正が実現されるように尽力して参ります。そして、国際的な起業環境における起業家獲得競争の中で我が国が起業家に選ばれ続け、優秀でスケールの大きな起業家こそ日本で大きな事業を成し遂げ続けたいと心から思える起業環境の整備に向けて、邁進して参ります。
関係各位のご理解、ご支援、ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
以上
