一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会

企業会計基準委員会(ASBJ)に対して日本の会計基準におけるのれんの非償却の導入を提言しました

政策提言

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会

会長 郷治友孝

会長 田島聡一

 

日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は、これまでベンチャーキャピタル(VC)業界の健全な発展および将来性のあるスタートアップの起業・成長の支援を目的として活動して参りました。現在、加盟するVCおよびCVCの会員数は303社となり、賛助会員も含めると402社という規模の団体となっております。

このたびJVCAでは、日本のスタートアップエコシステム発展の重要課題であるM&A(企業による合併・買収)の促進を目的として、企業会計基準委員会(ASBJ)が実施する「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関する公聴会において、日本の会計基準におけるのれんの非償却の導入について提言いたしました。

 

背景と課題認識

日本のスタートアップが経済に与えるインパクトは拡大しており、スタートアップエコシステムがGDPに与える影響は2025年時点で22.33兆円(GDP全体に占める割合は約3.7%)と試算され、昨年比で15%程度増加している成長セクターとなっています。一方で、日本のスタートアップは諸外国と比較してIPOへの依存度が高く、M&Aは相対的に少ない状況にあります。

大企業によるスタートアップのM&Aはもちろん、スタートアップ間のM&Aにおいても、現行の日本会計基準(J-GAAP)でのれんの定期償却が義務付けられているため、のれん代が大きなスタートアップのM&Aが損益に与えるマイナスインパクトが大きいことが、M&A促進の阻害要因となっていることが指摘されています。国際会計基準(IFRS)ではのれんを非償却資産として扱うこととなっていることから、日本会計基準では、相対的にM&Aを行うことのディスインセンティブが大きく、企業のM&Aに係る国際競争力に負の影響を与える可能性があります。

 

提言内容

JVCAは、以下の観点から、日本の会計基準におけるのれんの非償却の導入を提言いたします:

  1. スタートアップエコシステムの資金循環の促進
  • 大企業とスタートアップ間のM&Aを阻害し得る会計上のディスインセンティブの解消
  • 成長スタートアップによるM&Aの加速による企業成長機会の拡大
  1. 財務諸表の本来目的との適合
  • 投資家の企業価値評価において、のれん償却を削除して評価する実務が広く行われている現状への対応
  • 経営成績の適切な開示による投資家の意思決定支援
  1. 国際競争力の強化
  • IFRS採用企業との会計処理の平仄の確保
  • 日本企業のM&A国際競争力の向上

 

期待される効果

本提言が実現されることにより、以下の効果が期待されます:

  • 起業家: M&Aチャンスの拡大によるEXIT手法の多様化の促進
  • 大企業・成長企業: 会計上の損益インパクトを過度に気にすることなく積極的なM&Aに取り組むことが可能
  • VC・投資家: IPOに限定されないEXITの増加によるポートフォリオの新陳代謝とリターンの向上
  • 政策面: 政府の「スタートアップ育成5か年計画」における資金供給強化と出口戦略多様化に寄与

 

ASBJ公聴会での発表について

2025年9月3日に開催されたASBJ公聴会においてJVCAは、財務諸表利用者の立場から、スタートアップエコシステムの現状と課題、および会計基準の改正の必要性について詳細な説明を行いました。公聴会の模様はASBJウェブサイトにて公開されております。

JVCAといたしましては、今後とも関係機関と連携し、我が国のスタートアップエコシステムの更なる発展と、イノベーション創出に向けた環境整備のために積極的に活動して参ります。

 

関連資料:

以上

 

 

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