一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会

政策提言「外為法の事前届出対象業種の追加に関して」

政策提言

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会
会長 赤浦 徹
会長 中野慎三

当協会は、2002年11月の発足以来、ベンチャーキャピタル業界における相互連携とベンチャー企業育成の役割を一層強固にするという目的に向かって、活動して参りました。2015年以降、スタートアップの資金調達額とVCファンドレイズ額はともに順調に拡大を続け、ベンチャーキャピタルやコーポレート・ベンチャー・キャピタルなど当協会の正会員数は70社から141社へ倍増し、政府系や大学系の機関投資家など賛助会員も含めると、200社を超える会員数となっております。
本年6月に公表された政府の『成長戦略実行計画』においても、ベンチャー企業の創業支援や育成の重要性、ベンチャー企業への投資を飛躍的に高める必要性などが謳われているところであり、当協会としては今後とも、官民で連携して使命を果たして参りたいと考えております。

そうした中、本年5月27日に、外為法に基づく対内直接投資(外国投資家による非上場株式の取得)等に関する事前届出対象業種の追加等を行う改正告示(共同省令)が発表されました。これにより、IT関連の幅広い業種が事前届出対象業種に追加されることとなり、本年8月31日以降に外国投資家がこれらの業種に対内直接投資を行う場合、事前に届出を行って受理されないと、国内企業に投資ができなくなる、というものです。我が国のVCファンドの投資分野は大半がIT関連となっております。
当協会としましても、外国投資家による対内直接投資によって我が国の安全保障に重大な影響を及ぼす事態を生じることを適切に防止するという外為法の規制趣旨には、当然、理解と賛同をいたしているところですが、問題は、国内資本中心のVCファンドであっても、ファンド出資者の中に一部でも海外投資家に当たる出資者がいれば、当該海外投資家がファンドを支配したり業務執行に関与したりすることが制度上できなくても、その海外投資家に外為法の事前届出を行わせて受理されないと、当該VCファンドからの国内企業への投資自体ができなくなってしまう、ということです。
まだ売り上げや利益がない段階のベンチャー企業にとって、資金調達は時間が肝心です。入金の数日の遅れが、命取りとなることもあります。当協会としては、政府当局のご協力も得て、事前届出書や実行報告書の記載内容についての雛形を作成して本年8月30日に会員向けに配布するなど、会員の法令順守を呼びかけているところでありますが、一方、外為法令の制度をこのまま放置しておくと、国内企業へのベンチャー投資が停滞するとともに、我が国VCの海外投資家からのファンドレイズにも支障が生じる懸念が顕在化し、国の成長戦略に逆行する事態となることを危惧しているところです。
我が国のVCファンドは、その大半が、投資事業有限責任組合(LPS)という制度に基づいて設立・運営されておりますが、法制上、LPSの出資者である有限責任組合員(LP)は、事前に無限責任組合員(GP)の投資決定に関与せず、投資先に対して株主として経営関与したり提案行為を行ったりすることや、自らファンド財産の処分を行ったりすることはできません。そのため、当協会としては、外為法の対内直接投資規制をどの程度の海外LPにまで及ぼす必要性・合理性があるかは、再検討を要するのではないかと考えており、このたびの外為法上のIT関連事前届出対象業種の追加に関し、国内VC投資及び国内ファンドレイズへの悪影響を早急に食い留め、外為法の規制の本来の趣旨と国の成長戦略とをともに適切に実現いただくべく、政府に次のような施策を迅速に措置いただくよう要望して参ります。

• LPS等のファンドへの本規制の適用が、株式会社等と平仄の取れた形となるよう、法令改正。具体的には例えば、事前届出対象業種に投資するファンドの届出義務者を、海外投資家が出資している場合のGPとした上で、GPが海外投資家の支配下になく且つ出資口数上海外投資家の支配下にないファンドを運営している場合については届出不要とする。
• 今回追加された事前届出対象業種のベンチャー企業については、特にVCファンド等からの資金調達の必要性と緊急性が高い。そのため、上記法令改正が行われるまでの間、当該追加業種については、海外投資家による届出義務の発生を、一定の直接投資(例えば、LPS等のファンドを経由せずに海外投資家が直接株式を所有する場合等)に限定する等の追加省令を早急に発する。

引き続き、外為法に関し、会員各位の法令順守とご理解・ご支援、国内ベンチャー企業の皆様の今しばらくのご辛抱、並びに、政府関係各位の迅速な制度的ご対応のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

以 上

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